最近、困難に直面するたび、自分に言い聞かせているフレーズがある。
今、親の力が試されている。
誰か似たようなことをすでに言っていそうだが、受け売りではない。
試されている。だから今は頑張れ。
そうやって自分を鼓舞している。
◇
昨日は大変な一日だった。いろいろな意味で「俺は試されている」と思った。
妻の通院日に台風が重なり、学校が休みになってしまった。
それで予定外に息子が病院についていった。
お昼過ぎ、患者ではないはずの息子が急な頭痛でケアルームに運ばれた。
そのままでは妻が診察を受けられないので、私が仕事を放棄して病院に急行した。
客観視すれば大したことはない気もする。
しかし当人としては辛いのである。
朝、眠くてだるいが、頑張って起きる。
二人を何とか病院に送り出して、自分は出社する。
「もう疲れた」という妻をメールで励まし、フレックスで早めに退社しようと決心する。
しかし実際にはコアタイムの終わる寸前に息子が倒れて万事休す。
これ何ていう4コマ漫画?
思いがけない起承転結に頭を揺さぶられ、目まいがする。
何一つ予定通りに進まない。有休だけは減っていく。
ぶつける先のない焦りと苛立ちを胸に、大江戸線に乗る。
席は空いているが、座る気もしない。
◇
大学病院なので多少は期待したが、頭痛の原因は分からずじまい。
先生曰くCTスキャンがおすすめだが、今日はできないというので、自宅近くの脳神経外科へ行くことにした。
朝から止まない雨の中、息子と二人、歩いて脳神経外科へ行く。
テレビのない我が家のこと、病院でテレビを見るのは息子にとって貴重な時間だ。
待合室に入ると、息子はすぐさまテレビを見始めた。
テレビは数日前の事件で持ち切りだった。
新幹線の車内で、男が刃物を振り回したという例の事件である。
見ているのも辛いニュースが、私と息子の目に否応なしに飛び込んでくる。
容疑者の男は何らかの発達障害を持ち合わせており、一時期は施設に入所していたという報道だった。
おりしも息子がADHDの診断を受けた直後である。
どうしても、この男と息子を重ね合わせて見てしまう。
そんな私の気持ちを察したのだろうか。寝る前になって息子が突然泣き出した。
「僕、大人になったら人を刺しちゃうんじゃないかって心配になった」
とりあえず息子を抱きしめることしかできない私。
親の力が、また試されている。
◇
例の事件に関してはいろいろな論評が飛び交っている。
発達障害「だから」犯罪を起こした、というのは統計的に間違っているそうだ。
いちいち真偽を確認してはいないが、そうであると信じたい。
また、昨日見たテレビでは、男の父親が「中学生のころ、育児を放棄した」と語っていたように聞こえた。
父親に対するバッシングが始まることは想像に難くない。
しかし、この言葉の裏に何があるのか、どういう思いでこの言葉を発したか。
それはおそらく本人にしか分からないだろう。
「発達障害の子を持つ親」という意味では、私は経験1ヶ月でしかない、超初心者である。
テレビに映っていた父親は、いってみれば大先輩である。
大先輩はどんな気持ちだったのだろうか。
大先輩は道を誤ったのだろうか。
途中で、誰かからの救いの手はなかったのだろうか。
全く他人事とは思えない。大先輩の話を聞きたいとすら思う。
未熟者とはいえ、私も父親である。
とびきりの個性を持った息子を、健やかに成長させていかねばならないのだ。
親の力が試され続ける。